暑い日が増えてきましたね。
先日、東京では30℃を超えましたが、過去5年間で一番早かったそうです。
まだ梅雨入り前ですが、梅雨が明けたらあっという間に暑くなります。
夏の暑い季節が訪れると、保育園での熱中症対策が重要な課題となります。
子どもたちは大人よりも熱中症になりやすいため、適切な対策と対応が求められます。
この記事では、なぜ熱中症が発生するのか、熱中症の症状といった熱中症の概要と、子どもが特に熱中症になりやすい理由、保育園での具体的な対策と対応といった保育園ならではのことについて詳しく解説します。
年々暑さがひどくなっていっているし、子どもたちが心配だよ~!
実は、暑くなりきる前の今が熱中症予防の大チャンスなんだって!
今のうちに対策をして、暑い夏を乗り切ろう!!
今からできることなんてあるの?何だろう……?
まずは熱中症の概要から復習してみようか!
なぜ熱中症になるの?
具体的な熱中症対策を知る前に、なぜ熱中症になってしまうのか、熱中症の機序を復習しておきましょう。
熱中症になる仕組み|脱水が進むと熱中症になる
暑い環境であったり、あるいは運動をするなどをすると、深部体温が上がります。
すると、身体は皮膚表面の血管を拡張して血流量を増加させることで、皮膚表面から熱を放散しようとします。また、汗をかいて気化熱で体温を下げようとします。
通常ではこのようにして体温を調節し、深部体温が上がりすぎないようにしています。
しかし汗をかいているのに水分摂取量が足りていないと、身体の中の水分量がどんどん減っていき、脱水状態に進んでしまいます。
脱水状態となってしまうと汗をかくことができず、体温調節ができなくなり深部体温が上昇してしまいます。
また、真夏の気温の高い日は皮膚表面より気温の方が高くなり、さらに湿度の高い日は汗が気化しづらくなるため、放熱がうまくできず深部体温が上昇してしまいます。
深部体温が上昇すると臓器のパフォーマンスは悪くなります。さらに、皮膚表面から熱を逃がそうとして体表に血液が集まると、体内を循環する血液量が減少しますが、脱水状態となると全身の血液量が減少するため、ただでさえ体内を循環する血液が減っていたのにさらに減ってしまいます。
臓器に血液がいきわたらなくなると、さらに臓器のパフォーマンスが下がってしまい、めまいやこむら返り、意識消失といった症状が出現します。
このように深部体温上昇+脱水という状態が熱中症の原因となります。
子どもは「熱中症弱者」!
子どもと高齢者はその特性から「熱中症弱者」と呼ばれ、特に熱中症リスクが高いと言われています。
子どもはまだ汗腺の発達が未熟なため汗をかくことがあまり上手ではありません。
そのため、皮膚表面の血液量を増加させることでそれを補おうとします。
また、子どもは大人に比べて、「体重(熱を作る)に対する体表面積(熱放散する)」が大きいため、余計皮膚表面からの熱放散に頼っています。
しかし真夏には環境温が皮膚温を超えてしまうことがままあります。そうすると皮膚表面に血液を集めても熱を逃がすことができず、むしろ熱を取り込んでしまいます。
汗をかくことも下手なので、深部体温が大人より早いスピードで上がってしまいます。
また、保育園に通う乳幼児は身体の不調に気付いてそれを訴えることができなかったり、恥ずかしくて言えなかったりとすることが多いです。また、自分のタイミングで自分に必要な量の水分を補給することも難しいため、いつの間にか症状が進行してしまうことがあります。
また、子どもたちは私たちよりも暑い環境にいることを認識しておく必要があります。
通常気温は高さ1.5mのところで計測するため、私たち大人が感じる温度は気温と同等です。しかし、地面に近いほど温度が高くなるため、子どもたちはもっと暑さを感じています。
ベビーカーなどではさらに熱が籠ってしまうため注意が必要と言われています。
「子どもは汗っかき」ってイメージがあったけど、汗をかくのが下手な子どもが大量に汗をかいている状況って結構危なかったんだね……。
小さい鍋と大きい鍋では小さい鍋の方が沸騰しやすいのと同じように、子どもと大人では小さい子どもの方が熱くなりやすいんだ。そのうえ環境も大人より暑い。
そりゃあ熱中症になりやすいよね。
熱中症ってどんな症状?
では実際に熱中症となってしまった場合、どんな症状があるかを確認しましょう。
重症度から見た熱中症
熱中症は重症度により分類されます。熱中症が進むとどんな症状が出てくるのでしょうか。
Ⅰ度:軽度の症状
めまい、立ちくらみ、生あくび、筋肉痛、筋肉の硬直(こむら返り)、大量の発汗、口渇感、軽い頭痛などの症状が起きます。
意識ははっきりしているので、応急処置と見守りで様子を見ることができます。
Ⅱ度:中等度の症状
激しい頭痛、嘔吐、疲労感、虚脱感、集中力や判断力の低下などの症状が起きます。
身体がぐったりする、力が入らない、意識はあるがぼんやりしているような状態です。
応急処置でⅠ度以下に改善するようなら問題ないですが、改善しない場合や自力で水分を摂れない場合は医療機関でみてもらう必要があります。
Ⅲ度:重症の症状
意識障害、痙攣、手足の運動障害、高体温などの症状が起きます。
呼びかけや刺激への反応がおかしい、ガクガクと引きつけがある、ろれつが回らない、真っすぐ走れない・歩けない、汗をかいていない、体温が40℃近いなどの症状があれば、すぐに応急処置と救急搬送をします。
病態から見た熱中症
熱中症では重症度だけではなく症状から見た分類もあります。
上から順に重症度が高くなります。
熱失神
暑い環境で体温が上がると、皮膚表面の血管を拡張して血流量を増加させることで、皮膚表面から熱を放散しようとします。
立っている状態だと重力で血液が下半身にたまっていき、脳へ行く血液が減ってしまいます。
その結果、一過性のめまいや失神などの症状が起こります。
熱けいれん
暑い環境で体温が上がると、汗をかいて気化熱で体温を下げようとします。
汗には水分だけでなく電解質も含まれます(汗はしょっぱいですよね!)。汗をかくと身体の中の水分と電解質の両方が少なくなっていきますが、ここでミネラルウォーターやお茶などの塩分濃度の低い飲み物で水分補給をすると、血液中の塩分濃度が低下します。
その結果、痛みを伴う筋肉のけいれん、こむらがえりなどの症状が起こります。
熱疲労
皮膚表面から熱を逃がそうとして体表に血液が集まると、体内を循環する血液量が減少します。
この状態でさらに運動など身体を動かすと、体内を循環していた血液は筋肉に集まり、心臓に戻る血液が少なくなります。
相乗効果で体内を循環する血液量が減少し、脳や内臓へ行く血液が減ってしまいます。
その結果、脱力感、疲労感、めまい、頭痛、吐き気などの症状が起こります。
熱射病
循環不全や脱水がさらに増悪すると、皮膚表面の血管拡張ができなくなったり、汗をかけなくなったりします。
熱を逃がすことができなくなるため、体温が40℃以上に上昇し、脳や内臓などの機能に障害が起きます。
その結果、見当識障害、意識の消失、昏睡などの症状が起こります。
熱射病まで進行してしまうと、迅速に適切な救命措置を行っても救命できないことがあります。そのため、熱疲労から熱射病に進行しないように予防することが重要になりますが、条件によっては急速に進行することもあるため注意が必要です。
熱中症の応急処置
顔が真っ赤、大量に汗をかいている、体調不良を訴えるなどの熱中症が疑われる子がいた場合、以下のような対応をします。
まずは涼しい事務所や保健室などに移動しましょう。
身体を冷やしながら水分・塩分を与えますが、意識がもうろうとしていたり嘔吐している場合は誤嚥の危険があるため無理に飲ませないようにします。
そういった場合は救急搬送あるいは受診させ、点滴などの処置をしてもらいます。
熱中症になりやすい条件とは?
熱中症を引き起こす条件は「環境」、「身体」、「行動」によるものが考えられます。
これらの条件により身体のバランスが崩れると、熱中症となってしまいます。
1つが良くても他が悪いと熱中症になってしまうことがあります。
例えば「身体」が元気でも、「環境」と「行動」により熱中症となってしまうのは想像しやすいでしょう。
ですが「環境」が良くても「身体」と「行動」の影響で熱中症となることもあります。
具体的にどのような条件があるのか確認していきましょう。
環境
「環境」では以下のような条件があります。
暑い日に外にいると熱中症が起こりやすいというイメージがありますが、条件はそれだけではありません。
室内でも体育館のような閉め切ってムシムシした環境では熱中症になりやすいと言えます。
身体
「身体」では以下のような条件があります。
保育園の子どもは乳幼児というだけで「身体」が不利になっています。
その上食事が摂れていなかったり、病み上がりで来ていたり風邪の引き始めであったりするとさらに熱中症になりやすいと言えます。
行動
「行動」では以下のような条件があります。
運動をすることで熱が産生されるため、放熱ができないと熱中症に繋がります。
また、長時間屋外にいたり水分補給ができず脱水が進むことで熱中症になりやすいと言えます。
保育園での対策は?
保育園に通う年齢の乳幼児は、身体の不調に気付いてそれを訴えることができなかったり、恥ずかしくて言えなかったりとすることが多いです。
大人の十分な観察、定期的な補水、戸外活動時間を減らすなどの工夫が重要になってきます。
具体的な対策としては、原因である「環境」、「身体」、「行動」を改善できるようにしましょう。
「環境」対策
外の気温や湿度を調整することはできませんが、涼しく過ごす工夫はできます。
以下のような対策をしましょう!
私の園では熱中症指数計を活動場所(園庭日向・日陰、体育館、プールサイド、各部屋など)に設置しています。
活動前・活動中に熱中症指数計を確認し、リスクによって決めた活動時間の目安を守ってもらっています。
室内ではできるだけリスクが下がるように環境調整してもらいます。
冬には感染症リスクがわかるタイプのものもあって便利です。
「身体」対策
子どもは汗をかくのが苦手で熱中症弱者ですが、それでも対策はできます。
保護者の協力も必要です!
私の園では一日の推奨塩分摂取量を加味したうえで、塩分の含まれる飲み物を提供したり、おやつを塩○○にしたりと工夫しています。
水分摂取の意味も込めてゼリー系のおやつになることも多いです。
活動前に身体を冷やしておくことを「プレクーリング」と言います。
あらかじめ深部体温を下げておくことで、運動中の深部体温の上昇をゆるやかにしてくれる効果があるそうです。
暑熱順化については後述します。
「行動」対策
子どもはなかなか自分で体調不良に気付けず、遊ぶのをやめられないこともあります。
大人がしっかり気付いて休息を取れるようにしましょう!
意外に注意が必要なのがプール活動です。
以前保育士さんから「暑いからできるだけプールに入れてあげたい」という声をもらったことがあります。
しかし実はプールも熱中症リスクが高い活動であることはご存じでしょうか?
屋外で日よけが無い場合は直射日光を直接肌に浴びます。
そしてプールで遊んだり泳いだりすると結構汗をかくのですが、水の中にいるとそれに気付きづらくなります。また、プール水で口の中が濡れることでのどの渇きも感じにくくなります。
プールではいつの間にか脱水が進み、さらに水温が高いと放熱もできなくなります。
そのためプールでも熱中症になりやすいのです。
暑熱順化を知っていますか?
対策の一つに「暑さに慣れておく」というものがありました。
暑さに身体を慣らしておくことを「暑熱順化」と言います。
暑くなりきる前の5~6月のうちに運動をするなどしてよく汗をかいておくと、暑さを感じた時の発汗量や皮膚表面の血液増加量が増えたり、汗に含まれる塩分が少なくなったりします。
暑熱順化には数日から2週間程度かかるようです。
急に暑くなった日は無理する必要はありませんが、少し気温が落ち着いている日は園庭で走ったりお散歩に行ったりと運動をして汗をかいておくと良いですね!
他にも40℃程度のお風呂に10分間浸かるのも有効のようです。
暑熱順化は数日で効果が無くなってしまうそうです。数日しっかり汗をかいてないと急に暑くなった時に熱中症になる危険が高まります。
お盆などの長期休み明けは暑熱順化の効果が無くなっている可能性があるため注意が必要です。
また保育園看護師は涼しい事務所や保健室にいることが多いので、自分も熱中症にならないよう意識的に汗をかいておきましょう!
水分補給は水や麦茶では不十分
汗には水だけでなく塩分などの電解質(ミネラル)が含まれています。
脳は体液の塩分濃度が高いと「喉が渇いたぞ!水分を摂れ!」と命令し、体液の塩分濃度が低いと「排尿して水分を減らせ!」と命令しています。
汗をかいたあとに水や麦茶などの塩分が含まれないものを飲むと、体液の塩分濃度が下がってしまいます。
塩分濃度が下がったため喉が渇くなくなり、排尿量が増えます。
その結果、塩分濃度は発汗前と同じではあるものの、全身の体液量が少なくなり脱水傾向となってしまうのです。
私の園では基本的に補水として麦茶を提供しています。
麦茶にはミネラルが含まれているため水よりは良いですが、塩分量はあまり多くありません。
普段の補水では麦茶で十分ですが、園庭遊びや散歩後などの汗をかいたあとの補水では、塩を加えた麦茶を配るようにしています。
また、熱中症が疑われる子にはイオン飲料を与えています。味付きの経口補水液なので嫌がらずに飲んでくれる子が多いです。
塩麦茶との違いは「糖質が含まれているかどうか」です。糖質が塩分の吸収を助けてくれる効果があるので、症状のある子には効率の良いイオン飲料をあげています。
まとめ|暑くなりきる前から熱中症対策をしよう
温暖化で年々暑くなっている日本。夏は湿度も高いですし、日本に生きていくうえで熱中症対策は避けて通れません。
保育園での熱中症対策は、子どもたちの健康と安全を守るために欠かせない取り組みになります。
子どもは大人よりも熱中症になりやすいため、適切な対策と対応が求められることがわかったと思います。
今のうちから暑熱順化を心掛け、暑さ対策や保護者・給食室との連携、活動時間の基準を決めるなどの熱中症対策を行っておきましょう。
この記事が保育園での熱中症対策の参考になれば幸いです。保育園での熱中症対策をしっかりと行い、子どもたちが安心して過ごせる環境を作りましょう!
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