みなさんは「手足口病」をご存知ですか?
例年の報告数は5歳以下が90%と言われており、保育園ではよく見る疾患のひとつとなっています。
夏風邪のひとつで、数年に1回、大流行する年があるようです。
「子どもの足にぶつぶつがあるんですが、これって手足口病ですよね!?」って保育士さんに言われたんだけど、手足口病の子なんて見たことないしわかんないよ~!
私は自分や周りに経験者がいなかったこともあり、保育園看護師になるまでは手足口病の知識をほとんど持っていませんでした。
しかし、前述の通り、保育園で大流行してしまう可能性の高い疾患です。保育士さんや保護者から「これって手足口病ですか?」「保育園に登園しても大丈夫なんですか?」と質問されることもしばしばあります。
保育園看護師にとって手足口病の知識はマストです!
手足口病に対する理解を深め、具体的な予防・対応策を実践できるようにしましょう。
保育園看護師は「これは手足口病です!」なんて診断はできないけど、受診を促したり、診断後は生活上のアドバイスをしたりすることはできるよ。
急に声を掛けられて焦らないように、今のうちに知識をつけておこう!
この記事はこども家庭庁「保育所における感染症対策ガイドライン」を参考に作られています。
手足口病ってどんな疾患?
時々保育園で大流行してしまう手足口病。
そもそも手足口病とはどのような疾患であるのかの知識をつけましょう。
手足口病の特徴|2024夏は大流行!?
手足口病はその名の通り、手・足・口を中心に全身に水疱ができる疾患です。
手足口病は夏風邪のひとつとされ、5月から7月にかけて患者数が急増します。
患者の90%以上が5歳以下と言われていますが、大人も感染することがあり、その場合症状が重篤になりやすいそうです。
最新の東京都感染症週報(25週)では、患者数は以下の通りです。
このグラフから、2024年は例年より早く、全国的に患者数が増えてきていることがわかると思います。
他にも、1週前の東京都感染症週報(24週)では以下のように言われています。
手足口病の定点当たり報告数が31保健所中11保健所で警報レベルを超え、保健所管内人口の合計は、東京都全体の35.67%となり、警報基準に達しました。
東京都感染症週報(https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/assets/weekly/2024/24.pdf)
1週前の段階で警報レベルに到達し、そして現在(25週)はさらに上昇しています。
もしかすると今年は大流行になるかもしれません。
ちなみに、前回の大流行は2019年です。最近はコロナ禍で感染症対策が行われていたこともあって流行がなかったのかもしれませんが、大体3~5年周期で大流行しているようです。
今年とはグラフの縦軸の幅が違いますね。
ここまでの流行にならないといいなあ……。
なるべく流行を最小限にするためにも、手足口病のことをよく知っておこう!
手足口病の原因|アルコールの効かない強いウイルス
手足口病の原因となるウイルスは、コクサッキーウイルスやエンテロウイルスです。
ウイルスには「エンベロープ」と呼ばれる膜を持つもの(エンベロープウイルス)と持たないもの(ノンエンベロープウイルス)に分けられます。
このエンベロープはアルコールに弱く、エンベロープウイルスはエンベロープを壊されることで弱まります。
しかし、エンベロープを持たないノンエンベロープウイルスはアルコールに強いことが知られています。
コクサッキーウイルスやエンテロウイルスは、ノンエンベロープウイルスに属します。
ノンエンベロープウイルスはアルコールに強いため、手足口病はアルコール消毒では予防できません。
次亜塩素酸ナトリウムで消毒をするか、石鹸と流水による手洗いでウイルスを取り除くかが有効です。
原因ウイルスの種類が複数あるため、一度感染しても何度もかかりやすい感染症になります。
手足口病の感染経路|保育園で流行しやすい
手足口病の主な感染経路は、飛沫感染、接触感染、経口感染です。
咳や鼻水、水疱の中の汁、便などからウイルスが排出されます。
保育園に通う子ども達の特徴として、お互いの距離が近かったり、マスクをしていなかったり、玩具を舐めてしまったり、手洗いが上手でなかったり……といった理由から保育園では集団感染が起きやすくなっています。
症状が出た最初の週が一番感染力が強いため、早く気付いて受診や療養を促すのがベストです。
しかし、症状が良くなっても咳や鼻水からは1~2週間、便からは数週~数か月間ウイルスが排出されるため、治ったからと対策をおろそかにすると感染を拡大してしまいます。
手足口病の症状|手・足・口に水疱ができる
3~6日の潜伏期間の後、手のひらや足の裏、口の中などに2~3mmほどの水疱性の発疹ができます。
他にも、1/3程度で発熱が見られます。
感染したウイルスによっては、感染から1か月後に爪が剥がれることがあります。
基本的に経過は良好ですが、まれに無菌性髄膜炎や脳炎、心筋炎を合併することもあります。
水疱に痒みはありませんが、口の中に水疱ができると飲み込むのが難しくなり、食欲不振やよだれの増加が見られます。水分が摂れないと脱水の可能性もあります。
手足口病の治療方法|特効薬はないため安静が基本
ワクチンや特効薬はないため、対症療法と安静が基本となります。
対症療法といっても喉の痛みや熱を下げるために解熱鎮痛剤が処方される程度です。
咽頭痛が強くて水分を摂取できない場合は点滴で脱水を予防することもあります。
のど越しが良く食べやすいものを食べたり水分補給を心がけたりして安静にすることで、多くの場合1週間もすれば自然治癒します。
高熱が続いたり、嘔吐や頭痛がある場合は脳炎などを合併している可能性があるため改めて受診をしましょう。
保育園でしている手足口病の対応と対策
保育園で流行しやすい手足口病ですが、実際に保育園ではどのような対策が必要なのでしょうか。
私が実際に行っている対応や対策をご紹介します。
保育園での対応
実際に保育園で手足口病が発生したら、以下の通りに対応しています。
手足口病が疑われる子がいたら受診を促す
夏という季節や周りの保育園での流行状況を知っておくことで、手足口病の流行シーズンであることを把握しておきます。
そんな中、保育士さんから「手足にぶつぶつがある」「飲み込むのが辛そうでご飯を食べられない」などの相談を受けたときは手足口病を疑います。
※水痘(水ぼうそう)や突発性発疹、風邪で喉が痛いなどの様々な原因が考えられるため、手足口病とは決めつけないようにしましょう。
手足口病は症状の出始めが一番感染力が強いので、早めの対応が必要です。
保護者に連絡し、出ている症状や、考えられる疾患を伝え、受診の必要性を説明します。
(「園内で手足口病が流行しているので、〇〇ちゃんもそうかもしれません。一度お医者さんでみてもらった方が安心かと思います。」など。)
保育園から「受診しないと登園できません」と言うことはできません。
あくまで、本人が辛そうだから…とか、感染症だった場合に他の子に広げないように…など、保護者が「受診した方が良いな」と思ってもらえる説明が必要になります。
なお、受診の有無に限らず、そもそも食事が摂れない場合は保育園で預かれないことも説明しても良いでしょう。
受診する場合は必ず園内の感染状況を伝えてもらうようにします。
発熱が先行し、解熱したからと登園したあとに発疹が出ることもありました。この場合突発性発疹も疑うのですが、やはり受診を促した結果、手足口病と判明したパターンです。
登園の基準
保育園では感染症の登園基準を「学校保健安全法」に則って決めています。
手足口病は学校保健安全法において出席停止の感染症には分類されていません。
そのため明確に何日休まなければいけない、医師に登園許可をもらわなければいけないといった決まりはありません。
ウイルスの排出期間が長いため、症状が治まったあともずっと休め!とは現実的に言えません。
多くの保育園で、「解熱しており、普段通りの食事が摂れる」が条件となっています。
水疱が潰れても感染する可能性はありますが、痒みが無く潰れる可能性は低いため、水疱がなくなることを条件にはしないようです。
※保育園や自治体によっては登園許可証を医師に書いてもらう必要があるところもあるようです。
自分の保育園や自治体のルールに従ってくださいね。
日常の衛生管理
園内で手足口病の感染を広げないためには、普段の衛生管理が重要になります。
感染経路は飛沫感染、接触感染、経口感染でした。
ここでは主に接触感染の予防方法になります。
感染しやすいタイミングはいつかを考え、保育園で何ができるかを考えるようにしています。
手洗いの徹底
昨今ではコロナ禍の影響で手指消毒が身近になりました。
保育園の玄関や各クラス・各部屋にもアルコール消毒剤が置かれています。
しかし前述の通り、手足口病の原因ウイルスはアルコールが効きにくいウイルスです。
アルコール消毒はシュッと気軽にできて便利ですが、手足口病が流行しているときはアルコールを過信せず、石鹸と流水でしっかり手を洗うようにしましょう。
手足口病のウイルスが付着したものを触るなどして汚れてしまった手で、鼻や目をこすったり、食事をした際に指を舐めたり食器やスプーン・箸などが汚れてしまったりなどでウイルスが体の中に入ると感染してしまいます。
大人も子どもも食事前などタイミングを決めて定期的に手をよく洗いましょう。
この時タオル類の共用は絶対にしてはいけません。個人のタオルやおしぼり、使い捨てのペーパータオルなどを利用しましょう。
よく触れる部分の消毒
そもそも手が汚れなければ接触感染はかなり抑えられます。
子どもたちはまだ環境の汚れを認識できていない場合が多いです。
特に乳児さんは玩具やその辺に落ちているものを舐めますし、垂れた鼻水を手で拭ってあちこちを触ることもあります。咳エチケットもできないので、咳やくしゃみをした飛沫はいたるところに飛んで付着しています。
咽頭痛によりよだれの増加もあるため、玩具や床がべちょべちょになることも。
玩具を共有しない、鼻水は出たら必ずすぐ大人が拭く、咳をしそうな時は大人が代わりに押さえる……などは現実的に不可能です。そのためどうしても乳児さんでは感染が蔓延しやすい傾向があります。
それでもなるべく感染拡大を防ぐために、よく触れる部分の消毒を1日数回は行うようにします。
大人を介して複数のクラス・学年に広げてしまう可能性もあります。大人がよく触れる部分(ドアノブ、電気のスイッチなど)も消毒するようにしましょう。
もちろんこの時はアルコールではなく次亜塩素酸ナトリウムを使用しましょう。
復帰後も便の処理は慎重に
数日保育園をお休みした後、症状が治まって普段通りの食事ができるようになったら再登園しますよね。
手足口病は症状が治まっていても、1か月程度は便からウイルスが排出されます。
これは感染症蔓延時に限らずですが、排便の処理をする際は必ず手袋を着用し、処理後は速やかに石鹸と流水で十分に手を洗いましょう。
排泄が自立している幼児さんには、うんちの後はしっかり手を洗ってきてねと一言伝えるようにしています。
(毎回一緒に手洗いをするのは現実的に不可能です。)
感染予防の教育
看護師一人の力では感染拡大を予防することはできません。
子ども達、保育士、保護者の全員の協力が必要になります。
看護師は、感染予防について協力を仰がなくてはなりません。
子どもへ健康教育
健康教育は理解ができる幼児さん向けになりますが、流行時は以下の内容を伝えています。
- 手足口病という病気が流行していること
- 手足口病は手・足・口の中にぶつぶつができること
- 体にぶつぶつができたり、ご飯が飲み込みにくかったりしたらすぐに先生に教えてほしいこと
- ご飯の前や、トイレの後、咳エチケットをしたり鼻水をかんだりした後は手をよく洗うこと
乳児さんの場合は更衣が自立しておらず、担任保育士の数も多いため、体の発疹に気づきやすいです。
しかし幼児さんの場合は更衣が自立しており、担任保育士の数も少ないため、体の発疹に気づきにくくなっています。
就学に向けた教育としても、自分の体に関心を持ち、自分の不調に自分で気づけるようにしていくことが重要かなあと思っています。
保育士へ感染予防の啓発
当然ですが子どもだけに感染予防を教育しても、感染拡大を完璧に防ぐことは不可能です。
子ども達と一番密接に関わる保育士さんの協力が必要不可欠となります。
意外と自分のクラス以外のことは知らない場合もあるので、感染症の拡大が予想される時は朝礼などで以下の内容を周知しています。
- どこのクラスで手足口病が何人出ているのか
- 手足口病は手・足・口の中を中心に発疹が出る、発熱しない場合もある病気であること
- 怪しい症状があったら看護師に声を掛けてほしいこと(必要に応じて看護師から保護者に説明する)
- 登園の目安は「解熱しており、普段通りの食事が摂れる」であること
- 1か月は便にウイルスが排出されるため、必ず手袋をして処理後は手洗いが必要であること
- アルコールは効かないため、消毒は次亜塩素酸ナトリウムを使用し、よく手洗いをすること
- 感染者がいるクラスは感染拡大防止のため、一日数回の環境消毒をすること
アルコールが効かない認識がない保育士さんが大半なので、とにかく手を洗ってください!と念押ししています。
もちろん消毒作業には看護師もお手伝いに行きます。トイレ掃除もしっかりやりますよ。
日々の保育で手いっぱいで消毒なんてできないよ~!と言われてしまうこともありますが、看護師が手本となることで「これくらいやらなきゃいけないんだな」と保育士さんの認識も変わってきます。
保護者へ流行状況や疾患についての周知
月に1回のほけんだよりでは、夏前に「夏に流行りやすい感染症」として、手足口病を含めたいくつかの感染症を紹介しています。
しかし、ほけんだよりで感染症の流行をお知らせするのでは遅い場合がほとんどです。
感染症の拡大が予想される場合は、すぐに保護者へ周知が必要です。
私の園では、使用しているおたより帳アプリにメッセージ機能がついているため、園内で感染症が出ていることをメッセージにて周知します。
メッセージ内には、感染症の概要や登園の基準も載せています。
また、保育園の玄関にもどの学年で感染症が何人出ているかの掲示をしています。
発疹がある、発熱しているなど感染症の疑いがあり、お迎えをお願いした場合は、直接保護者に園内の感染状況をお伝えしています。
園内の感染状況は、受診時に医師の診断材料にもなっていますので、必ず医師に伝えてもらうようにしています。
まとめ|2024夏は大流行が予想!保育士との協力が不可欠
手足口病は、保育園で頻繁に見られる感染症で、今年は既に警報が出ており、大流行が予想されています。
しかし、保育士さん達と協力して適切な予防策と対応策を講じることで、流行を最小限に抑えることができます。
この記事で紹介した方法を実践し、手足口病の流行を防ぎ、子どもたちの健康を守りましょう!
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